業血鬼とは、多くの人間から大量の血と精氣を吸い取り、身も心も異形へと変容してしまった吸血鬼です。彼らは欲望の赴くまま凶行に及び、相手が人間であろうと吸血鬼であろうと餌食とします。『ブラッドパス』において、業血鬼はPCたちが倒すべき強大な敵として立ちはだかるのです。ここからは、業血鬼の恐るべき力について解説しましょう。
業血鬼への変貌
人間が生物のなかでもっとも豊富な精氣を有している理由は、その 【思業】(しごう)にあります。【思業】とは、希望や絶望、期待や不安、愛や欲などを包括した人間の精神的な原動力となるものです。吸血鬼が人間から精氣を吸う際、実は〝思業〟も取り込んでいるのです。少量の吸血であれば、取り込んだ〝思業〟は吸血鬼に影響を及ぼしません。
しかし一度に大量の吸血を行なうと、取り込んだ〝思業〟は吸血鬼の精神の奥底へ溜まってゆきます。そして、短期間に大勢の人間から大量の血を吸った場合、蓄積された〝思業〟は吸血鬼を内部から侵食し、業血鬼へと変えてしまいます。
具体的に、どれくらいの期間で何人の人間からどれだけの血を吸えば業血鬼化するのかは個体差があるので判然としていません。しかし、少なくとも1日で100人以上の人間を吸血で殺している場合は、ほぼ確実に業血鬼化するようです。また、互いに強い正の感情―愛や強い友情などを抱く人間から致死量の血を吸った場合も業血鬼になるとされています。
なお、業血鬼が吸血鬼に戻ることはありません。
血契喰い
吸血鬼が業血鬼化する原因は、もうひとつ存在します。それは【血契】(ちぎり)を結んだ相手から致死量の血を吸い、殺すことです。この行為を〝血契喰い〟と呼び、吸血鬼は一時的に普段の数十倍の力を獲得しますが、しばらく時間が経つと必ず業血鬼化します。
ただし、【血契喰い】はパートナーである人間の許可がなければ絶対に行なえません。【血契喰い】で業血鬼となった者は、人間の死の覚悟と、成し遂げなければならない目的があったのです。
……もっとも、業血鬼がそれを覚えているかは別ですが。
作為的な業血鬼化
吸血鬼を強制的に業血鬼化できる者がいる、という説があります。5年前を境に業血鬼が急速に増加している理由は、この能力を持つ者がいるから……という理由ですが、実際は確認されていません。しかし、明らかに大量殺戮や親しい者の致死吸血をなど業血鬼化の条件を満たしていない業血鬼も確認されており、あながち眉唾ともいえません。
根源(こんげん)
業血鬼には、【根源】と呼ばれる強い衝動が備わっています。彼らは己の裡にある根源に従って行動し、その過程で人間や吸血鬼がどれだけ死のうと、まったく考慮することはありません。
対鬼組織によって、業血鬼の根源は七つに分類されています。
殺戮(さつりく)
ただひたすらに殺し、命を奪うことに喜びを感じます。もっとも、いくら殺しても本当に満たされることはありません。
闘争(とうそう)
強い敵との戦いを欲しています。強敵を誘き寄せるために人質をとったり、憎まれるよう計画することもあります。
支配(しはい)
他者を支配すること、他者は自分に跪くことが同然だと信じています。人間を言葉で騙したり、洗脳して従わせます。
愛玩(あいがん)
相手の意志に関係なく、気に入った人間や動物を愛でます。思い通りにならなかったり飽きたりすると、簡単に殺してしまいます。
研究(けんきゅう)
永遠や魂、生命の神秘など、自らが追い求めるテーマを持ちます。探究のためであれば何でも平気で犠牲にします。
美学(びがく)
自らの美的センスや哲学を絶対とし、その実現のため行動します。理解しない他者は愚物と見下し、排除します。
憎悪(ぞうお)
心に強い憎悪を抱いています。たとえ仇や敵を殺しても憎悪は消えず、終わりのない復讐を続けます。
業血鬼は【根源】に従って凶行を重ねるごとに、その力を増してゆきます。そのため、事件の規模が大きくなれば隠蔽も難しく、抹殺の難易度もけた違いに上がってゆくため、各組織は業血鬼討伐においてスピードを最も重視しています。
業血鬼の特徴
業血鬼に共通する特徴について、解説しましょう。
知性とコミュニケーション
業血鬼は基本的に会話が可能です(しかも、血を吸った相手が話していた言語であれば瞬時に理解して話すことができます)。なかには快活だったり、天真爛漫であったり、思慮深さを示したりする個体もいます。しかし、業血鬼の奥底にあるのは「自分の根源を満たしたい」という衝動だけであり、本当の意味で他者と分かり合うことはできません。
血戒(けっかい)
業血鬼を無敵たらしめる最大の要因が、彼らが持つ〝血戒〟という力です。血戒は業血鬼が放つ〝威圧感〟のようなものであり、この影響下となった生物は立つのも困難なほど体を重く感じたり、戦意を喪失したり、呼吸困難や意識の混濁といった症状が発生し、精神の弱い者であれば気絶してしまいます。これは人間と吸血鬼も例外ではなく、たとえ吸血鬼狩りの精鋭部隊でも、源祖や貴種が複数束になっても、業血鬼とは戦うことすらできません。さらに、業血鬼は〝血戒〟の出力をコントロールできるため、完全に消し去って人間社会に溶け込むことも可能です。
血戒の影響を受けないのは、血戒を展開した業血鬼が特別に許した者と、同じく業血鬼。そして血盟だけです。
戦闘力と異形化
業血鬼は非常に高い戦闘力を有しています。たとえば素手で大地を割るほどの腕力や、弾丸を避けられる動体視力と瞬発力などを備えているほか、血奏法の展開速度と威力も吸血鬼とは比べ物になりません。
そんな業血鬼の戦闘力は、〝異形化〟を果たすことでさらに上昇します。〝異形化〟とは業血鬼の欲望を体現した、いわば〝真の姿〟です。異形化した業血鬼は、人間とはかけ離れた怪物のような姿になります。たとえば過去には「殺し続けたい」業血鬼は刃物を組み合わせた鎧のような姿、「なにかを見つけたい」業血鬼は数千の眼を備えた肉塊のような姿、「美しくなりたい」業血鬼はきらびやかな服をまとったマネキンのような姿になった記録があります。
なお、業血鬼は自分の意思でいつでも異形となり、逆に人間体に戻ることができます。
グールの使役
吸血鬼に致死量まで血を吸われた人間の多くは、そのまま死亡します。しかし、なかには稀にグールという怪物に転化する者もいます。グールは動く死体であり、強い飢餓感に衝き動かされて人間に襲い掛かります。自我はほとんどなく、コミュニケーションは不能。動きは緩慢ですが、腕力は強く、油断すれば対鬼組織の戦闘要員でも殺されてしまいます。
業血鬼はグールを従え、思うがままに操る力を持ちます。また、人間を殺す際にあえてグール化させたり、力を与えて普段より強力なグールを生み出したりできます。
業血鬼同士の関係
業血鬼は基本的に自分本位な存在であり、他者との交流や馴れ合いに興味はありません。しかし、一部の業血鬼には(同じ業血鬼に限り)コミュニケーションをとる者もいます。彼らの交流は基本的に〝暇つぶし〟や〝気分転換〟、あるいは互いに邪魔をしないための相互監視や情報共有が目的です。ただし、性格の合う業血鬼であれば、その力を認め、微かな敬意が生じることもあるようです。
また、力のある業血鬼は他の業血鬼から〝異名〟を贈られることもあります。特に、最強の業血鬼とされている11人の業血鬼には、いずれも特徴的な外見や過去の振舞いにちなんだ〝異名〟を持っています。
もっとも、いくら業血鬼同士でコミュニケーションを深めようと、彼らは根本的に他者と分かり合えない存在です。そのため、自分の欲望を満たす邪魔になる場合は、相手が誰であろうと殺すことに忌避感はありません。
業血鬼の歴史
5年前に日本で発生した【灰滅事件】(はいめつじけん)を境に、業血鬼は世界中に出現するようになりました。
もっとも、それ以前にも業血鬼自体は存在しており、たびたび人間や吸血鬼と戦ってきました。世界中の神話や昔話に残る邪悪な怪物や大妖怪には、業血鬼がモチーフになっているものもあるようです。もちろん、これらの発生数は現在と比べれば圧倒的に少なく、数百年に一度くらいの頻度でした。
古来より業血鬼が出現するたびに、血契を通じて血盟となった人間と吸血鬼が打ち破っており、その記録は現在の対鬼組織へと伝えられてきました。【灰滅事件】後すぐにブラッドパスが業血鬼の対抗手段になることが判明したのも、 連綿と受け継がれた記録があったからなのです。
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