キズナバレットⅢ世界設定 ゴスペルバレット編

このページは『キズナバレットⅢ テンシたちの終末』電子書籍版が発売されるまでの、期間限定ページです。

目次

ゴスペルバレット

ゴスペルバレットとは、テンシによって製造(転用)された、特殊なバレットです。
彼らは“悪性福音”というナノマシンを体内に取り込むことで、テンシからさまざまな恩恵を得ます。その代わり、ゴスペルバレットたちはテンシの配下として邪魔なキセキ使いやテンシを排除し、時には主人を狙うバレットや残響体を始末します。
まさに“毒を殺す毒”であるゴスペルバレットについて、このページで解説していきます。

ゴスペルバレットの発見

テンシたちがいつゴスペルバレットの有用性に気づき、配下として採用したのか。その詳細な時期はわかっていません。
SIDで記録されているかぎり、最初に「バレットを殺すバレット」が報告されたのは約1年ほど前のことです。そこから「テンシの配下」を名乗るバレットが確認されはじめ、SIDによってゴスペルバレットと名付けられました。これを知った“退屈のテンシ”リオ(P89)が自分の配下をゴスペルバレットと呼び始め、ほかのテンシもそれに倣うようなりました。
 ここ1年ほど、組織に属するバレットが任務中に消息を絶ったり、フリーランスのバレットが行方不明になったりする事例が増えています。SIDはそのうちの数割がゴスペルバレットになったのではないか、と推測しています。

悪性福音(イル ゴスペル)

ゴスペルバレットは“悪性福音”という特殊なナノマシンを投与されています。
“悪性福音”は、「“リベル”と共存できる特殊な“福音”」です。通常の“福音”は、ハウンドやオーナーの体内に入ると“リベル”によって駆逐されます。しかし、“悪性福音”は“リベル”の攻撃を避けるよう巧みに擬態しており、宿主の中でゆっくりと増殖していきます。
そして、バレットをテンシの配下へと造り替えます。

悪性福音の効果

“悪性福音”は、テンシが配下を縛るための道具です。行動の制約をはじめ、いくつかの効果をバレットに与えます。

リベルの無効化
ゴスペルバレットの体内にある“悪性福音”は、“リベル”に干渉して主人(テンシ)への効果を打ち消します。そのため、ゴスペルバレットは主人に致命傷を与えることができません。

反抗の抑制
ゴスペルバレットは主人(テンシ)に反抗しようとすると、体の動きが止まります。
どういった行動が反抗に該当するかは、テンシによって基準が異なります。反抗を煩わしく思うテンシは、(たとえ致命傷を与えられないとしても)ゴスペルバレットが自分に敵意を抱いた段階で動けなくなるように設定します。逆に、ゴスペルバレットの反抗を「可愛らしい」と楽しむテンシは、ちょっとした暴力まで許容することがあります。
自死を選ぼうとした時も、反抗とみなされて体の動きが止まります。自死もまたゴスペルバレットの境遇から離脱する方法であり、主人(テンシ)の意思に逆らう行為だからです。

イルマーカー
“悪性福音”を取り込んだゴスペルバレットの体には、イルマーカーと呼ばれる銀色の印が浮かび上がります。この印は「主人(テンシ)がゴスペルバレットたちをどう思っているか」によって、位置と形状が変わります。イルマーカーは、主人(テンシ)にとってまさに所有物の証です。わざとイルマーカーが見える衣服を身につけるよう指示する、嗜虐的なテンシもいます。

特殊な力の付与
テンシは“悪性福音”を通じて、配下に特殊な力を与えることができます。強力な殺傷能力である“断頭騎士”、強い精神干渉力である“狂笑配達人”など、その種類は多岐にわたります。
なお、これらの名称はすべて“退屈のテンシ”リオが考えたものです。

悪性福音の精製

“悪性福音”は、“福音”を精製することで作り出されます。これはテンシのなかでも力ある少数の個体だけが精製可能で、ゴスペルバレットは必ず精製者の配下になります。
つまり、もらい物の“悪性福音”で自分の配下を作ることはできません。逆に、他のテンシやキセキ使いに“悪性福音”を渡して自分の配下を増やすことは可能です。

ゴスペルバレットの入手

テンシがゴスペルバレットを入手する方法は、大きくわけて3種類あります。

1:すべて自分で準備する

誰の手も借りず、1人でゴスペルバレットを用意する方法です。

手順1:ハウンドの素体を入手する
ゴスペルバレットを手に入れるためには、まずハウンドを用意しなければいけません。
通常のバレットと同じく、ゴスペルバレットのハウンドの素体は、「“福音汚染”で消えずに残った死体」です。ほかのテンシやキセキ使いが行った“福音汚染”の現場で入手してもいいですし、自分で片っ端から“福音汚染”を起こして素体を探してもかまいません。誰かハウンドにしたい人間がいる場合、素体になるかどうかは運次第です。狙って素体にすることはできません。

手順2:ハウンド化の処置をする
素体が手に入ったら、ハウンドにするための処置を行います。微少な機械の埋め込みやハーネスのセットなどの外科的な手順は、テンシなら容易く行えます。ペアリングによって活性化する前の“リベル”なら、触れても大した問題はありません。軽い火傷をすることはありますが、テンシなら一瞬で治癒します。
ただし、部品はどこかから入手しなければいけません。闇市場に流れているものを買ったり、バベル商団(『第2巻』P101)に通信販売を頼んだり、バレットを運用している組織から強奪したり、どんな方法を選ぶかはテンシ次第です。21グラムの“リベル”と少量の“悪性福音”を注入したら、ハウンドの準備は完了です。

手順3:オーナーの用意とペアリング
ハウンドが手に入ったら、次はオーナーを用意します。ハウンドと相性のいい人間を探すことが、実は一番大変な作業です。生前にハウンドと関わりのある人間はペアリングが成立する可能性が高いため、ピンポイントに狙って誘拐したり、強迫したり、勧誘したりすることがあります。
ペアリングが成立しているオーナーは使えませんが、ハウンドが消えてペアリングが切れたオーナーに“悪性福音”を注入すると、ゴスペルバレットのオーナーとして使えます。ただし、“悪性福音”は注入後に72時間ほどかけて“リベル”を侵食していきます。その間、オーナーは全身の激痛に苛まれることになり、最悪の場合はショック死することがあります。

ペアリングが成功すると、そのテンシだけのゴスペルバレットの完成です。準備が大変なだけに、テンシにとって「いちから自分で作った」という満足度は高いようです。そのため、模型を作るような感覚でゴスペルバレットを製造するテンシも存在します。

2:すでにあるハウンドを利用する

人間の組織が処置した素体を利用して、自分のゴスペルバレットを用意するテンシもいます。

晶滅の危険性
すでに体内にリベルがある素体は、“悪性福音”の注入後に拒否反応が起きて即座に晶滅する可能性があります。“悪性福音”が無事に侵食を終える可能性は約10%で、成功しても記憶や性格に影響が出ることがあります。

素体の入手とペアリング
素体は組織から奪うこともできますし、バベル商団から購入もできます。あるいはオーナーが死亡して休眠状態になったハウンドを使う手段もあります。自分に挑んできたバレットのうち、わざとオーナーだけを集中的に狙って殺し、残ったハウンドを自分の配下にするテンシもいます。
ハウンドを用意したら、次はオーナーを探してペアリングさせます。

すでにあるバレットを転用する

すでに活動しているバレットに、“悪性福音”を注入することでゴスペルバレットを入手するテンシもいます。

注入の方法
いくらテンシでも敵対行動をとっているバレットへ無理矢理に“悪性福音”を注入することはできません。注入できたとしても、励起状態の“リベル”が体内に侵入した“悪性福音”を駆逐します。
そのため、“悪性福音”を投与できる相手は、自分の意思で配下となることを願うバレットか、力尽くで無力化したバレットに限られます。どちらの場合でも、“悪性福音”の注入で72時間の苦しみが起きます。

成功の確率
ゴスペルバレット化の成功率は約10%程度であり、ハウンドとオーナーが揃ってショック死したり、体が耐えきれずに晶滅することがほとんどです。ただし、どちらかが死亡することはなく、揃ってゴスペルバレットになるか、揃って死ぬかのどちらかです。

ゴスペルバレットを欲する理由

テンシは単体で強大な力を有しています。そんな彼らがゴスペルバレットを欲する理由には、いくつかの種類があります。

戦利品

支配欲が強く嗜虐的なテンシが、戦いで屈服させた人間を、戦利品としてゴスペルバレットにすることがあります。自分に向けられる敵意や些細な反抗を喜び、自分の命令に従う様を見て愉しんでいます。
戦利品に値するゴスペルバレットは強力であることが多いので、邪魔者を排除するための駒としても使います。

愛玩動物

歪んだ愛情を持ち庇護欲の強いテンシが、気に入った人間をゴスペルバレットにすることがあります。自分が素敵だと思う服装をさせたり、自分の趣味で彩った部屋に住まわせたりして、本人の意思とは関係なく一方的に愛情を注ぎます。
兄や姉として接したり、妹や弟として甘えたりするテンシもいます。

実験体

好奇心や探究心の強いテンシが、興味を持った人間をゴスペルバレットにすることがあります。ゴスペルバレットに身体の機械置換や薬物の投与などさまざまな処置を施し、実戦に投入してはデータを回収しています。
侍従のように扱い、自分の身の回りの世話や雑事を任せることもあります。

これらはあくまで一例であり、特異な理由でゴスペルバレットを所有するテンシも多く存在しています。

ゴスペルバレットの扱い

SIDをはじめとする人間側の組織にとって、ゴスペルバレットは敵勢力の一部です。そのため、すべてのバレットには「ほかに優先すべき目的がない場合、ゴスペルバレットと遭遇した場合には、これを排除せよ」「妨害を受けた際は抹殺せよ。元一般人であっても、殺害は作戦遂行上の必要な犠牲と判断する」という指令が下っています。
キセキ使いやテンシを憎むバレットにとって、ゴスペルバレットもまた憎むべき敵です。そのため、現場で遭遇した際には躊躇なく戦闘を始めることがあります。ゴスペルバレット側は、主人(テンシ)から下されている命令によって対応が変わります。積極的に戦う指示が出ていれば戦い、無駄な戦いを避けるよう命令されていれば逃走します。

元ゴスペルバレット

主人(テンシ)が消滅してゴスペルバレットから解放された者たちが、そのまま他組織に保護・編入されることがあります。テンシやキセキ使いに憎しみを抱いているバレットや職員たちは、テンシの配下だった者を快く思いません。そのため、組織でも孤立することが多いようです。

ゴスペルバレットのメリット

ゴスペルバレットはテンシに振り回され、人間側からは敵として排斥される立場です。しかし、彼らにはテンシの配下になる恩恵もまた存在します。

生活の保障

テンシのなかには、政治家や大企業の社長など、“表向きの顔”として社会的に高い地位や豊富な資産を持つ者がいます。こうしたテンシの配下になると、(ほとんどの場合は)裕福な暮らしを送ることができます。経済的に困窮している人間からすれば、これは人間を敵に回すに値する待遇でしょう。

復讐の手段

強い復讐心を抱いている者が、その手段としてテンシの配下になることがあります。たとえば、仇敵の居場所がわからなかったり、強固に守られている場合、テンシの力を借りれば復讐を完遂できる可能性が高まります。ただし、復讐が終わったら戦う意欲が減衰したり、生きる気力を失ってしまう者がいるため、テンシが十分にゴスペルバレットを利用し尽くすまで復讐の機会を取り上げておくことがあります。

テンシへの心酔

テンシへ愛情や慕情を抱いている者にとって、ゴスペルバレットになることはこの上ない幸福です。もともとテンシの肉親である場合や、歪んだ思想や信仰心を抱いている場合、あるいは洗脳によって崇敬の念を抱かされた場合など、さまざまな経緯があり得ます。
テンシのなかにはバレットの片方だけを洗脳し、もう一方をあえて洗脳しないことで反応の違いを愉しんでいる者もいます。

残響体化の抑制

ゴスペルバレットになると、“悪性福音”の影響で残響体化が発生しなくなります。残響体化が進行している場合、その最中に“悪性福音”を注入すれば、1度だけ残響体化を抑制できます。そのため、大事なパートナーを残響体化で失いかけた際に、テンシに勧誘されてゴスペルバレットになった者もいます。
ゴスペルバレットになった先には、かつての仲間と戦う日々が待っていますし、晶滅の危機はついて回ります。少しばかり別れを先延ばしにするだけの行為ですが、それでもキセキに縋りたいと考える者は存在します。

病気や怪我の回復

テンシのキセキは、不治の病や大きな怪我を回復させることが可能です。そのため、家族や恋人などの健康を取り戻す代わりに、ゴスペルバレットになる者がいます。
本人の病気や怪我は“悪性福音”によって回復することが多いため、それを条件にテンシの配下になる者もいます。

記憶や感情の復元

テンシのキセキは、失われた記憶や感情を“取り戻させる”ことができます。これは、キズナの破壊によって失われた記憶を含みます。戦いを重ねて記憶を失っていくことに耐えきれず、テンシに救いを求めるバレットが存在します。
ただし、戻る記憶は、テンシが本人から読み取ったものを、キセキによって再構成したものです。つまり、厳密に述べると「記憶が戻った」のではなく「よく似た記憶が与えられた」に過ぎません。記憶の一部をテンシが改ざんしたり、意図的に欠落させたりしても、本人はまったく気づけません。
また、回復できる範囲はゴスペルバレットになる直前までです。ゴスペルバレットがキズナを破壊すると、他のバレットと同じように記憶や感情を失っていきます。

死者の復活

テンシのキセキは、死者との再会を可能にします。
正しくは死者の復活ではなく、“福音”によって遺体をまるで生きているかのように動かしたり、“福音”で死者そっくりの人間を作っているだけです。
それでも、触れますし、心臓が動いて血が通ってもいますし、生前の記憶を持ち、生前とまったく変わらない仕草をします。たとえ偽物だとわかっていても、大事な人との再会を条件に、テンシの配下に加わる者が存在します。

ゴスペルバレットからの解放

本人たちが望むかどうかはともかく、ゴスペルバレットから解放される手段には、いくつかの種類があります。

晶滅

キズナの破壊が進んだハウンドやオーナーは、“リベル”の過活性によって身体が崩壊することがあります。晶滅した者はテンシの所有物ではないので、解放されたと言えるでしょう。
また、パートナーの晶滅によってペアリングが切れた者は、“悪性福音”が一次的に停止するため、テンシに反抗することが可能になります。テンシが興味を失えば、逃走することも可能でしょう。ただし、“悪性福音”が消えるわけではないので、新しいパートナーを与えられて再びゴスペルバレットとして活動させられる可能性があります。
なお、ゴスペルバレットは残響体になりません。ナノマシンの鎮静化に失敗した場合、その個体は晶滅します。主人(テンシ)が死亡した後は、ゴスペルバレットにも残響体化が起きるようになります。

主人の死亡

主人(テンシ)が死亡した場合、ゴスペルバレットに命令を下す者はいなくなります。“悪性福音”が消えるわけではありませんが、行動の制約が消えるため、性質は通常のバレットとほぼ同じです。
テンシから恩恵が与えられている場合、それもまた消失します。テンシから与えられた財産や社会的立場、欲していた情報、キセキで作られていた人物や健康、キセキで復元されていた記憶など、あらゆるものを失います。

主人(テンシ)が死亡してもイルマーカーだけは消えません。「かつてテンシの所有物だった」という過去は、ずっと体に刻みつけられたままです。

  • X
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次